第12話 非常事態 JAL崩壊!
誰も想像できなかったJALの崩壊。果たして絶望的な将来になるのか?
今回は、この件について私の経験を踏まえ、少しお話したいと思います。
2010年初旬に、JALが経営破綻をし、大量のパイロット候補生が訓練を受けられず、地上職勤務に就かされたり、内定を取り消されたりしました。
「パイロットとしての輝かしい未来が待っていたはずなのに、こんなはずではなかったのに、パイロットとしてスタートすら出来ない。これからどうすればいいのか?・・・・・・」
会社の諸事情で、内定を取り消された訓練生には大問題であるが、海外の航空会社ではパイロットの内定取り消しは普通の事なので、私からすると別に驚くべき事ではない。
それよりパイロット養成の比重を大きく航空会社に依存している事が問題の様な気がする。
日本では全く飛行経験がなくても航空会社の自社養成システムで、自分のお金を出すことなく、訓練を受けられ、パイロットになることが出来た。
でもこれは日本だけのシステムで、海外では皆、自費で飛行免許を取得し、5〜10年間使用事業会社などで、飛行経験を積み、航空会社に応募して採用されている。
つまり、免許を取得した状態での採用になるので、採用を取り消されたとしても、他の航空会社に応募出来る。
取り消された時は落胆するが、次のチャンスが待っており、1社に絞らず、複数の航空会社に同時に履歴書を送り、採用を待つ。
それとこれは私がNZの採用担当官から直接言われた事だが、内定も複数の会社から貰っていることを望んでいるそうだ。
皆、自身の都合で2〜3年働いて、他の航空会社へ移動していく事が珍しくないので、会社も一生勤めてもらおうなどとは夢にも思っていないらしい。
多くの外国人パイロットが日本の航空会社で働いているのをご存知でしょうか?
3年更新程度でパイロット派遣会社から派遣され、機長として日本の空を飛んでいる。
海外のパイロット派遣会社のHPを見れば、どこの航空会社が採用しているのか分かります。
また海外のLCC(ジェットスターなどローコストキャリアの略)では、応募者の資格経験と共に自費でエアバスなどの操縦資格を取らせるのが普通である。
もちろん給料も安い。
航空会社のもっとも大きな出費は、燃料費と人件費だ。
燃料費は、安全上の問題から必要最低限以下は削れない。
他に大きく削れる所は人件費なのだ。
日本でも10年ほど前から、自費で免許を取得した人を雇い始め、新規航空会社の大きなパイロットソースとなった。
LCCなどは、削れる所は、どこまでも切り詰めている為、乗員養成に費用を割り当てることは出来ない。
広告宣伝方法、チケット購入方法、パイロット厚遇の見直しなど、昔と大きく変わってきているのは、全て人件費を削る為である。
日本の大手航空会社が抱える問題の一つに、国内・海外航空会社のLCCとの競争力の差がある。
自社養成で莫大な費用をかけてパイロットをトレーニングしていては、運賃も安く出来るはずがない。
今までのようにブランドで勝負する時代ではないのだ。
コスト、サービスを見直し、新規・潜在顧客を制していく時代に突入してるのである。
これから日本の航空会社を取り巻く環境はさらに厳しくなっていくだろう。
今までのエアラインパイロットの概念が根本的に覆される時期に来ている。
そして自社養成というシステム自体見直されて行くだろうし、現行のパイロット達の教育などさらに厳しくなっていくだろう。
これについていけないパイロット・パイロット訓練生は生き残っていけないと思う。
今も昔もエアラインビジネスは非常に浮き沈みが激しく、一度沈みだすと、あっという間に底が見えてしまう。
いかに大手のエアラインであっても、大きく政情・景気に左右される。
その浮き沈みにパイロットの仕事は存在する。
努力をして免許を取得し、会社に入社しても、最低6ヶ月に一度の技量審査があり、その審査にパス出来なければ、地上職に回され、パイロット職を外される覚悟が必要で、最悪の場合はクビである。
再度、そのパイロットをトレーニングする余裕がないからだ。
また半年に一度の航空身体検査をパスできなければ、即地上職勤務。
最新機材やSOP、航空法の更新などの膨大な勉強も要求される。
一度空に上がれば、たった一度のミスも許されない。
事故・インシデントがあれば、経歴に傷が付き、下手をすれば一生パイロットとして乗務出来なくなる。
TVドラマに出てくる華やかな世界とは、大きくかけ離れている事を認識してもらいたい。
始めから読んでくださればわかるが、私は10年前に自費で免許取得に乗り出した。
長年パイロットに憧れて、勉強したが、自社養成は書類審査すら通らず、航空学生にもなれなかった。
JEXが自費訓練免許取得者・経験者パイロットを採用し出し、それに応募する為の条件を満たす為、会社を辞め、NZに渡航。
免許を取得したが、金銭的理由と日本のパイロット雇用実情に失望し、NZに夢を託し再渡航した。
NZでは、外国人扱いを受け、なかなかチャンスが与えられなかったし、就労ビザや永住権の問題、手にしたチャンスもとんでもない形で踏み潰され、何度も挫折を味わいながら、やっとパイロットジョブを掴んだ。
「私の仕事はパイロットなのだ!」これは誰よりも強く思っている自信がある。
確かに国・言語などで苦労はしたがそれは関係ない。
チャンスを掴んだのは、技術、経験と知識で勝負してきたのが功を奏したのだと私は思っている。
自分を必要とする会社が出てくるように最大限の努力をしてきたからだと思う。
私はパイロットになりたい方々の相談をよく受けている。
決まって聞かれるのは「今、パイロットになれますか?今、パイロット景気だから、就職出来ますよね?」
私はいつもこう答えている。「パイロットになれるかどうかはあなた次第です。景気を読むよりもどうやったら凄腕のパイロットになれるか考える方が重要です。」
多くの方が、このパイロット景気(浮き)を考えて、行動しているように思える。
しかしこの浮き沈みを読むことはほとんど不可能である。
会社の経営者すら読むことが出来ない。
景気がよくて、パイロットとして採用されたとしても実力がなければ、あっという間に地上職に回されるかクビになるのがオチである。
このような人達を私は今まで見てきた。
また今回のJALのように、会社の見通しが暗くなれば、パイロット内定者もあっさり切られてしまう。
JALが経営破綻をし、沈んだ景気でも諦める必要は全くないと私は思う。
浮き沈みに関係なく、パイロットの資格を身につけ、浮き始める時に備えて、飛行技術経験を積むべきだと思う。
パイロットの雇用は景気に左右されても、パイロットの資格経験は景気に左右されない。職人の世界なのだ。
景気が浮かぶその時までに、その会社が自分を欲しいと思わせるパイロットになっておく必要がある。
つまり沈んだ今こそ、自分のパイロットキャリアをスタートさせ、次のチャンスまでに備えておくべきである。
ただ気をつけることは、ただ免許を取得するだけでなく、しっかりとした技術・知識・経験を身につける事。免許はただの名前に過ぎない。
中身が最重要なのだ。
もしあなたが乗客だったら、楽に早く資格を取得したパイロットの操縦する飛行機に乗りたいですか?
航空会社も同じように考えます。
どんな小さなフライト、例え、自家用の1時間のフライトでも最初から真剣勝負です。
これがプロを目指すパイロットの最低条件です。
私はNZへ渡り、海外エアラインに行く為に教官になった。
学生も皆、エアラインパイロットになりたいから来ていた。
だから学生には、自分の持ちえる限りの知識と技術の全てを教えてきたつもりだ。
たった1時間でも無駄にしたフライトはない。
すべて全力だった。
そして私自身も常に学んで、それを学生にフィードバックすることを怠らなかった。
また上記で述べたようなプロパイロットとしての条件を言い続け、メンタル的な面も教育してきた。それが飛行教官・プロパイロットとしての誇りだったからだ。
だから私が担当をした学生で、日本の事業用資格を取得した者は、冗談ではなく、ほぼ100%、日本のエアラインパイロットになっている実績がある。
現在もエアラインパイロットとして学んだ事を後輩達にフィードバックしている。
パイロットを目指される方は今一度、ご自身に問い直してもらいたい。
パイロットの仕事を一生責任を持って貫く事が出来るのかを。
そこに迷いがあればパイロットにはなれない。
趣味で休日にセスナを飛ばした方が合っている。
強い信念があるのなら、ご自身のキャリアをスタートし、諦めずに前進すべきだと思う。
これから先、幾多の困難が待ち受けている。
それを乗り越え、一生涯パイロットとして生きていく覚悟をするべきだと思う。
これは私自身にも常に言い聞かせていることである。
そしてもしこのブログを訓練を受けられなかった候補生や内定を取り消されたパイロット訓練生が読んでいたならば、ぜひ諦めずに夢に向かってチャレンジしてもらいたい。
個人的に応援しています。頑張れ!!!
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