NEVER GIVE UP! 海外でパイロットへの道 IN NEW ZEALAND
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「パイロットになりたい」と日本を飛び出し10年目にして夢を掴んだ男の軌跡

 第17話 葛藤 2013年~ 

 ある日、自分の定期審査の時が来て、試験官の名前を見て嫌な気分になった。

彼とは一度だけ一緒に飛んだことがあった。
彼は機長訓練の時の最後の実機訓練の教官だった。
実機訓練は通常90分あるのだが、彼は私にその半分の時間もくれず、訓練はたったの30分、V1カット1回のみで終了した。
しかも私が挨拶をしても無視。話しかけても返答もなく、フライトが終わったあと「何か気に障るようなことをしたなら謝りたい。」と言っても、「You are an authentic captain.No need briefing.Good luck on your check. Bye.」とだけ言って去って行った。

その彼が、私の定期審査の試験官である。

絶対落とされるに決まっているし、前回受けた失礼な態度を考えない様に日々生活していたが、彼の名前を見たとたん、思い出し怒りが込み上げてきた。

彼と絶対飛んではいけない。
彼のせいで一体何人クビにされキャリアを潰された来たか知っていた私は困惑していた。

審査の日も仮病を使って休む事も出来た。

しかし馬鹿正直な私は、逃げ回るようで根性なしに思えたし、自分の飛行技術に自信がないのかと自己否定をしているみたいで嫌な気分になった。

会社には社員の悩みを聞いてくれる部署があるのでそこに相談してみた。

そこで言われた事は、もう10年以上他のパイロットや地上スタッフも私と同じように彼とトラブルを抱えており、問題のある人物であることは承知しているが、社長と懇意にしており、上に苦情を出してももみ消され、苦情を訴えた人は会社を追われてしまったという。


これは厄介な事になったと思ったが、私と同じような経験をしたパイロットが一体何人いるんだろうかと知りたくなった。

どのくらいの人間が困っているのか?どのくらいの人間がそれを直したいと思っているかそこはとても大事に思えた。

私一人で文句や不満があるのなら、問題は私自身にある。

第三者的な判断が必要だと思った。

そこで信用できるパイロット達に調査を頼み、そこから枝分かれで国内中にいるパイロットの調査結果がほんの週数間で私のところにきた。

問題の大小あるが、多くのパイロットが彼からパワハラまがいの行為をを受けていたのである。しかも会社はそれを改善することなく見て見ぬふりをしていた。

触らぬ神に祟りなしなのだろう。

今まで個人で苦情を出して潰されてきたなら、大勢でいっぺんに出してみたらどうなるだろうか?それでも会社は見て見ぬふりをするだろうか?

そう考えてまた仲の良いパイロット達に「会社に苦情を書いてもらいたい。」とお願いしてみたが、みな消極的だった。

そこでまず私が機長訓練であった事を会社に報告すると話した。

もし苦情を出せないのであれば、私に何かあった時にバックアップしてもらいたいとお願いし、国内中のベースのキーパーソンに納得して貰えるまで話した。
これはみな自分たちの中から変わり、会社をもっと安心できる場所にするんだという意気込みが必要だと訴えた。

ただ社内だけでは失敗する可能性があるので、労働組合を通してエアーニュージーランド本社にも苦情を提出した。

そして都合がいいことに、彼と仲が良かった社長は異動になり、実質彼をかばえる人がいなくなった。

苦情を提出して程なくして、会社から連絡があり「彼の件で社内調査を入れる事になった。」と報告を受けた。私は会社に行き、自分の身に起こった事を説明した。

運よくその場に私の状況をまじかで見ていた人が居て、私の話した事を事実として信じてもらえた。

しばらくしてから知ったことだが、私が会社に提出した後でかなりのパイロット達が彼への苦情を報告したことがわかった。

調査後、彼は訓練教官の職を外され、ただのキャプテンになった。

その後、定期審査は彼以外の試験官と飛び、無事審査をパスした。
私はどうしても彼の口からなぜ私を失礼な態度で扱ったのか聞きたかった。

しかし会社からは何の連絡もないまま今日まで来ている。

この出来事があってから、他のパイロット達が私の事を一目も二目も置くようになったが、それより皆が安心して公平に審査やトレーニングを受けられるというごく普通の状況になったことが嬉しかった。

審査は審査であると同時に学ぶチャンスであるべきなのだ。当たり前のことが私の会社では当たり前ではなかったのだ。

会社が少し変わった様に思えた瞬間だった。




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